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  Archives 1 「卓球王国」1997年2月号  インタビュー
孤高のプロフェッショナル  松下浩二
 
 
五輪に出てみると、一生をそこにつぎ込んでもいいと思う。
まだまだやれる感じがする。
 
 − アトランタオリンピックは4年前のバルセロナと全然違ったと思うけど。
「メダルを取りたかったし、オリンピックに対する思い入れというのは強かった」
 − 自分の口ではメダルと言いながらも、世界との壁を感じているから、本心は違ったのでは?
「4年前はそういう壁があったかもしれないけど、今回それはなかった。ぼくにもチャンスがあると思っていた。シングルスもそうだけど、ダブルスはもっとチャンスがあるし、もしかしたら優勝できるんじゃないかなと本気で思っていた。だから、ベスト8で終わったときには本当に残念でした」
 − 日の丸を自分の中で、より意識するのがオリンピックかな。
「オリンピックに出てみると、一生をそこにつぎ込んでもいいと思います。ダブルスがベスト8、シングルスがベスト16で両方とも劉国梁とそのペアに負けました」
 − その差はなんだろう。
「技術的な差もあるけど、卓球に対して自分はまだまだ甘いと、中国選手とやってみてわかった。試合をやってみて、彼らはやることが厳しい。それに精密で、勝つ卓球をやってくる」
 − 第1ステージでグルッバを破った試合はすばらしかった。
「すごくいい試合だったと思うし、ああいう試合はこれから先もなかなかできないかもしれない。あの試合に関してはとても満足しています。前回よりも成績はいいし、世界のトップ16に入れたし、まだまだやれる感じがする。95年の世界選手権前に50位くらいのランクが今は20位そこそこまで来ているし、今29歳ですけど、もう1、2年がんばればこれはいけるかなと」
 − ということは、自分のピークはまだ上にある?
「まだ自分の持っている全部は出し切っていない」
 − その糊しろの部分はどこだろう。
「一番大きいのはメンタルの部分。作戦を考えているときでもまだ失敗することがあるし。技術的にもまだ守備が多いし、両ハンドを振れるようになれば戦えるし、サービスももっとよくなるだろう。そうやって、一つひとつ整理していけばまだまだ可能性はある。体力的にも落ちていない」
 − あまり年齢は感じない?
「感じないですね。今のトップ選手は息が長いし、35歳くらいまでやっていけますから、今が一番いい時期じゃないかな。ぼくは10年以上国際舞台で戦っているけど、まだまだキャリアが少ない。ぼくはもっと国際試合に出ていき、卓球以外の面でももっと勉強して、自分の人間力を大きくしていかないと技術が伸びていかないと思っています」
 − 93年にプロ宣言して3年以上経ったけど、今振り返ると……。
「早かった。がむしゃらにやってきた時もあったし、あっという間でした」
 − 日本唯一のプロとしての気負いは?
「ないですよ。心地いいですよ」
 − なぜ日本にもっとたくさんのプロが出てこないんだろう。
「それには歯がゆい感じもしますけど、なぜでしょうか。それは日本の習慣とか考え方のせいじゃないですか。いい大学に行って、いい企業に行って、というのが根強く残っているから。やっぱりぼくとは価値観が違うんでしょうね。今でもぼくには不安や危機感がありますよ。契約終わったら次にどこが契約してくれるかな、とか。ただ自分の好きなことをやれるのは幸せなことだし、嫌なことをしてお金をたくさんもらっても、自分にとっていい生き方ではないし、たとえお金が少なくても好きなことをやっていきたい」
 − 全日本で勝たないとまとまったお金が入ってこないというシステムがあるために、プロが出てこないのでは?
「それもあるかもしれません。日本ではトーナメントに賞金がついていないのが一番のネックです。実際にどこからお金が入ってくるかみんなわからないでしょう。今でも契約選手(セミプロ)は企業にたくさんいる。そういった契約選手に聞くと、今はアマに負けても給料は減らされないけど、プロ宣言したらアマチュア選手に負けられないというプレッシャーを受けるし、負けると今の給料を減らされるという部分が引っかかるらしい。
 でも結局は自分が強くなるためにはプロになったほうが甘えも出てこないし、自分を追い込むこともできる。そうすれば強くなれるから、勝った負けたというのはぼくにとっては二の次。毎日の生活が大事だから、自分の力を上げるためにはプロになったほうがいいと思った」
 − スウェーデンに行ってプロになろうと決意した。プロフェッショナル松下浩二の原点はヨーロッパにあるような気がする。
 テニスの伊達選手みたいに海外で活躍するほうが子供たちに夢を与えられるのでは?
「それはそうです。挑戦したい気持ちはあります。スウェーデンでの生活がなければ今のぼくはない。楽しいんですよ、向こうは。
 勝っても負けても自分が本当に卓球をやっているんだという実感が湧く。日本だと負けたときは傷のなめ合いで、それじゃダメだと思う」
 − 実際にやってみてプロフェッショナルというのは?
「ぼくは非常にいいもんだ思うし、卓球のプロも捨てたもんじゃないし、他のスポーツに引けをとってない。プロはおすすめできますよ(笑)。一生懸命やれば卓球で十分にメシは食えますよ、全日本チャンピオンにならなくても。最初にプロになったときにはサラリーマンに毛が生えた程度だったけど、今はサッカーや野球選手に引けをとらない。数千万円くらい稼げるようになっているし、1億円プレーヤーをめざしたい。卓球でもそれだけのお金を稼げることがわかれば、子供たちもプロをめざすかもしれない」
 − 松下浩二がめざすものは。
「卓球を知らない人に卓球の良さをアピールしたいし、それがぼくの役目だと思ってます。プロとして活躍して子供たちの夢を世界につなげたい」
 卓球への沸き上がる衝動が彼をプロの道へと駆り立てた。自ら選んだ道を歩きながらもそこで感じた不安、焦燥を努力という行為で消し、遂に優勝という代償を得た一人のプロフェッショナル。
 そして、次なるステージは同じプロフェッショナルがひしめく世界という舞台。「日本の松下浩二」の名前を世界に知らしめることが彼自身の夢を実現するための一つの手段であり、日本の子供たちへの最良のプレゼントかもしれない。  
 
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