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2002−chap3
 
台がすごく大きく見えた。
 だから打てたし
 フリックしてもミスを
 しない自信があった
 

−− 6ゲーム目、スタートでリードし、6−7とされたところから、4本連取し、10−7とマッチポイント。ここで2本取られて、10−9になったところでタイムアウトを取った。

 「自分でも感じたけど、ぼくの集中力はすごかった。次の1本、相手のバック前のサービスをツブ高で台上フリック。あの試合で初めて使った技だった。ボール自体は大したことないけど、相手も不意をつかれたと思う」。
 意表を突かれた木方は、その時の気持ちをこう語った。「タイムアウトのあと、何かやってくるとは思ったけど、まさかツブ高でバックにフリックしてくるとは思わなかった。予想外でした。ミドルに小さくサービスを出して、たぶんツッツキでレシーブしてくると思っていた。自分の予測よりも少し早く返ってきたので、焦って手が出てしまった」。

−− 10−9の次の1本は、特別なものだったのだろうか。

 「台がすごく大きく見えた。だから打てたし、フリックしてもミスをしない自信があった。あの試合ではあそこの場面だけ。振り返ると、『よく打ったな』と思う。まさにあの1本が試合を左右した。あれを逃していたら試合はどうなっていたかわからない。勝った瞬間? 信じられなかった。まさか勝てるとは思わなかった。あの感覚は、クアラルンプールでの世界選手権のボルに勝った時以来かな。まだ自分にもこんな力があるんだと感じた」。

 そのことを木方に告げた。「台が大きく見えた? それを聞いたらしょうがないですね。やっぱり優勝と2位との差を改めて感じてます。この悔しさをバネにして、次につなげるしかない。もう目指すのは優勝しかない。
 1位と2位の差? 簡単に言えば浩二さんは強かったし、実力も向こうが上。それなのにぼくは2回勝っているということで、少し自信を持ちすぎた部分があった。相手がカットマンじゃないと思えばもっと強気にいけただろうし、攻めてくるのはわかっているわけだから、相手が攻撃マンだと思ってやっていれば、最初から強気でやれたはず」。
 松下にとって、全日本は特別のものであり、それは同時にプロフェッショナルとしての存在証明の場でもある。12月の全日本選手権の最終日に彼は調整を合わせているのだ。全日本選手権は大会前から、そこで優勝しようと本気で思っている人にしか勝利の女神は微笑まない。上位を狙って、その勢いでもしもチャンスがあれば……という人は優勝できない。この大会が持つ伝統の重さゆえに、会場には特別な空気が流れている。そして、その空気が選手の心理を狂わすこともある。
 優勝した松下を高島はこう評した。「専任トレーナーをつけたり、ドクターを連れてくるなど、松下は健康管理を誰よりも一生懸命やっている。今回の準決勝、決勝のプレーができたら世界でやれる。あと1、2年はレベルアップすると思う。体力の衰えはどこで見るのかというと体の切れ。彼はまだ体が切れる。瞬発力もある。それがあるうちはまだまだやれる」。

 
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