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全日本選手権の決勝は特別な雰囲気に包まれる。決勝が5回目の松下はそれに慣れているが、木方にとっては初めての決勝。松下は木方の心理状態をどう読んでいたのだろう。
「木方はプレッシャーを感じながらやるだろうし、大事に来ると思っていた。実際に1ゲームのスタートで大事に来たし、2ゲーム目の最後10−9でも焦っているな、プレッシャーを感じているなというのはわかった」。
−− 決勝の出足から攻撃が多かった。
「あれは作戦です。先に2ゲーム取ったけど、2−0で五分だと思っていた。あの時は、ぼくの調子が良かった。彼の強打に対して返球できていて、足もよく動いていた」。
松下は木方の心理を読みきっていた。木方は知らないうちにその術中にはまっていく。
序盤での木方の心境はこうだ。「ぼく自身は大舞台で緊張するタイプではないし、大舞台のほうが燃える。ただ1ゲーム目、気づかないうちに硬くなったと思います。カットに持っていけば得点できる自信はあった。でも、レシーブがあまくなって3球目からずっと攻められる形でスタートした。ちょっと様子を見ようかなという気持ちがどこかにあって、そこをつかれて1ゲーム、2ゲームを落とした。けど、2ゲーム目の後半くらいから自分の試合ができるようになった」。
「打たないと勝てない」− 松下の決死の作戦。サービスを持ってからの先制攻撃カットラリーにカーブロングを入れてからの攻撃ラリーというように、木方の機先を制した。
−− 3ゲーム目は1−6とリードされてからジュースまで追い上げたけど、最後は落とした。
「このゲームは取りたかった。やっと相手もエンジンがかかってきたかなという感じだった」。
−− 4ゲーム目は6−9から10−9と逆転して、結局12−10で取った。木方に途中でエッジボールが2本あって、試合の流れは木方に傾いているように見えたけど。
「ぼくはそうは思わなかった。エッジボールとネットインは必ず出るもので、今出ているからあとはないだろうと思っていた。逆に後半ぼくにそれ(エッジボールやネットイン)が来るだろうと。だから、あまり気にしてなかった」。
−− 5ゲーム目はワンサイドで落とした。
「相手の打つコースが厳しくなってきて、フォアストレートをうまく使ってきた。それまでクロスにしか強打が来なかったのに、バックにボールを集め始めた。タイミングが合わなかったから、ちょっとまずいかなと思った。3−3になると苦しいから次の6ゲーム目が勝負だった」。
6ゲーム目に入る前に、ベンチの高島は松下にこう言った。「どんなボールでも追いついているから、点を取られる時でもラリーを長くすること。その代わり得点する時には速攻で取らなければいけない。そういう展開は相手に対して心理的にプレッシャーを与え、相手は追い込まれる。そこに持ち込めれば、相手は無理をしてくる」。
木方はゲームを2−3にして、必死に流れを自分に引き寄せようとしていた。「浩二さんはカットを切ってこなかった。それは今までの対戦とは違っていた。ぼくはミスしないで相手をじらさせようと思ったけど、最後は自分がじれてしまったことに悔いが残る。4ゲーム目はエッジボールが2本あり、ついていた。自分としてもゲームを1−3にしたくなかったので、9−6になつたあたりでタイにできると思って、少し消極的になったのかも。そのゲームをジュースで落とし開き直って、次の5ゲームを思い切っていけた。コート上の心理戦はベンチでも同じように繰り広げられていた。佐藤監督はベンチでこう感じていた。
「1ゲーム目、慎之介が緊張していようがしていまいが、浩二は勝ちたかったら打ってくるだろうというのはわかっていた。慎之介があれだけブロックミスするということは緊張していたのだろう。2ゲーム目の終わりくらいから本来の慎之介(の当たり)が出た。4ゲーム目、6−5から2本連続エッジボールがあって8−5、このゲームを取れなかったのは大きかった。浩二の執念を感じた。6ゲーム目は打ってくる、1ゲーム目と同じ展開に戻してくると思った。なぜなら4ゲーム目の後半からカットで得点できなくなっていた。実際にはカットでも得点できているんだけど、浩二の心理の中では、5ゲーム目であれだけ打たれた、というイメージを持っている。だから打ってくるのはわかっていたし、浩二の3球目を封じれば五分になるかなと思った。実際に打ってきた。いつもだったらもっとミスするのに。それだけ彼の集中力は良かったし、研ぎ澄まされていた。慎之介は悪くなかったし、あの戦い方しか浩二は憤之介に勝つ方法がなかった」。
−− 6ゲーム目のスタートから攻撃を仕掛けたのも作戦だった? カットになってもすぐにカーブロングを入れて攻撃のラリーに持っていった。
「木方は5ゲームを簡単に取ったことで、少なからず次につながったから少し安心しているんじゃないか、最初は1ゲームと同じように大事に来るんじゃないかなと思った。ぼくのサービスでスタートしたけど、案の定攻められるボールが来た」。
木方に隙があったとは思えなかった。もしあったとしても本当にわずかな隙を松下は突いていったのだろう。「確かに5ゲーム目が終わって、『いけるかも』という気持ちはあったけど、それ以上に浩二さんは攻めてきて、前半押されてしまった。安全にいってしまって、粘ろうと思っていても、最後に焦りが出てしまった」(木方)。
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